ベルリンのITスタートアップで働くジャバ・ザ・ハットリの日記

日本→シンガポール→ベルリンへと流れ着いたソフトウェアエンジニアのブログ

【読者質問 05】海外で働くには実務経験か学歴か?

ご質問ありがとうございます。さっそく質問から

デザイナーとして働いている高卒です。エンジニアの旦那(情報系学部の4大卒)と海外で働きたいと思っているのですが、ビザを取得するのに4大卒資格が必要という記事をよく見かけます。

技術を身につけることに集中してこのまま日本で実務経験を積むか、
日本で実務経験を積みながら芸大もしくは放送大学などの通信に通うか、
はたまた海外の専門や4大に入るか
などで悩んでいます。

主観で構いませんので、ジャバ・ザ・ハットリさまであればどのような選択をするのか教えていただければと思います

これはとても難しい質問ではあるのだが、質問者さんのおっしゃる「主観で構いませんので」が核心を突いている。つまりこの質問には主観でしか答えられない。

答えを結論から言うと、もし私が質問者さんと同じ状況だったら今すぐ現在のスキルで行けそうな海外拠点と職場を探して、CVを送りまくって、面談してなんとかオファーをもぎとって移住する、となる。

例えば海外拠点がアメリカの大都市となると、学歴やその他の条件からとても厳しいことは予想できる。今のアメリカで外国人がビザを取るのは大学院の卒業資格を持っていてもちょっと難しい。しかし海外と言うのはアメリカだけを指すのではなく、アジア、南米、ヨーロッパとどこでも海外になるので探せば必ず自分に合った国が見つかる。最初は勢いでもなんでも行ってしまえば自分に海外暮らしの適正があるのか無いのかがハッキリする。後のことは日本を離れた場所で暮らしてみてから考えればいい。

技術を身につけることに集中してこのまま日本で実務経験を積む、というのもしっかりゴール設定があった方が有効になる。ただ漠然と「海外で働きたいなー」と思って仕事をしても「海外でデザイナーとして活躍するために何が必要なのか」は分かりにくい。そこは海外の会社に向けた転職活動で応募書類を送ったり、面談したりする中で「この国で働くにはこういう技術が必要なんだな」というのが分かってくる。いきなりオファーがもらえなかったとしてもその過程で学ぶことができる。海外の会社からお断りのメールをもらっても、そこで何が足りないのかに気付けば普段の仕事にも気合が入って充実するだろう。日本での就労経験もハッキリとした目標があればとても有用な実務経験となって蓄積されるはず。

後は学歴について。確かにご質問者さんが言うように大学に入って、卒業資格を得るというのも選択肢のひとつとしてはアリだ。そこは否定しないし、実際そういう道を進んで成功されている例がたくさんある。むしろそっちの方が正攻法かもしれない。比較すれば学歴がある方が移住がしやすいのは確かな話。しかし17歳の高校生ではなく社会人である質問者さんが学歴のために時間を使って大学に行く価値が本当にあるのか、と疑問に思う。

最近、日本人の友人がアメリカのとても有名な大学のMBAコースを卒業した。元々勉強がよくできるヤツではあったが、よくあんな大変な大学のMBAを無事に取ったな、と感心していた。きっとこれからアメリカのエリートコースを爆進するのだろう、と思っていた。が、彼女は日本に戻って就職活動する、と言っていた。色々事情はあるのだろうが、アメリカの大学のMBAホルダーであっても今のアメリカで職を得るのは相当に難しいらしい。もし彼女の履修したコースがMBAではなくコンピュータ・サイエンスだったらもう少し容易に職が得られたことは想像に難くない。ただ数年前は猫も杓子も「MBA!MBA!」と騒いでいた気がする。

別に「MBAが全て無意味だ」とまでは思わないが、どんな学科にも時代によって流行り廃りがあるということだ。そんな面倒なことはすっ飛ばして今スグ行けそうなところへ飛び込んだ方がいいと思う。

いろいろ動いてみれば自ずと道が見えてくる。例えば質問文にあった「エンジニアの旦那(情報系学部の4大卒)」と完璧なので、この旦那にヨーロッパでEUブルーカードを取らせるのもひとつの方法。EUブルーカードというのは高資格外国人用のビザみたいなモンで夫か妻のどちらかがEUブルーカードを持てばその配偶者もEU圏内での就労の権利が得られる。つまり旦那さえEUブルーカードを取れば質問者さんはヨーロッパで働くことができる。高資格外国人というのは職種が数学、情報処理、自然科学、工学分野の研究者や医者、技術者、エンジニアでしかもある一定以上の給与をもらっていることが条件になる。

EU諸国で働くための「ブルーカード」

高資格外国人という表現がハードル高い感じがするが、ヨーロッパの都市のまともなITエンジニアであればブルーカードの基準給与はほぼ超えることができる。今の世の中はエンジニアが優遇され気味だが、それがいつまで続くのかは分からない。だったら取れそうなうちに旦那にブルーカードを取らせるのもひとつの手だろう。こういう時は使える物は犬でも旦那でも使えばいい。

と、ここまで回答を書いて再び悩んでしまった。大学に行くという正攻法を捨てるのが本当に有効なのだろうか、と。質問者さんの人生に影響しそうなことなのに無責任すぎないか、と不安になった。

今の職場であるベルリンのITスタートアップには2人のデザイナーが居る。イタリア人とフランス人。この質問の回答に参考になるかと思って彼らにも話を聞いてみたら、2人とも大学でデザインを専攻し卒業していた。ただEU人である彼らはEU圏内は自由に移動できるし就労にビザは不要だから、そこはあまり参考にならない。分かったのは2人とも大学卒だということ。近年のより学問的理論に支えられたデザインにおいては学歴が重要である、との結論で一致していた。彼らの意見は、現実的に考えて質問者さんはまずインターンへの応募になる、と。実務経験1、2年でジュニアレベルへのエントリーは語学も含めて難しいだろう。ただ経験を積んでシニアレベルのデザイナーにまでになれば北ヨーロッパで職を得ることにほぼ困らない。これは近年のデザイナー需要の高騰が背景としてあるらしい。
彼らの話を聞いて「じゃあ、やっぱり大学に行った方がいいと考えるべきなのか?」と思ってしまった。

質問を読み直してもう一度考えた。かなり考えた。そこでふと気がついた。
冒頭に書いたようにこれは前提として「もし私が質問者さんと同じ状況だったら」だ。そうであれば私だったら大学には行かない。ここはハッキリしている。私なら働きながら虎視眈々と海外を目指す。なぜなら私にとって大学で4年かけて学んだ内容と、海外に出て外国人達と共に働いた4年を比較すると後者の方がよほど刺激的で楽しく何十倍もの学びがあったからだ。なにがその人の人生を豊かにするのか、は人それぞれ。私にとってはそれが異国の地で、自分とまったく異なる人達と働き生活することになっているし、今後もそうしたいと考えている。基本的な考え方として「周到な準備と完璧な計画」にあまり意味は無いと思っていて、常にモットーは「まずはやってみること」というのがある。
このやり方が他の人からすると賢いやり方に見えないのは百も承知。それでも私だったら、大学に時間を使わないで今スグ海外に出る準備をして出る。今スグ出る。

これが私なりの答えです。ぱっと思いついて書いた回答ではなく、人の人生に関わることなのでかなり熟考した上で書きました。

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ということでだいぶ質問を受けるのがキツくなってきた。最初はあんまり来ないだろ、と思ってたのに意外にたくさん来たし。ありがたいことに違いはないが、どの質問もその人にとっては大切なことのように思えて、テキトーに回答書く訳にもいかずド真剣に考えて書いている。

相談における「役立つ回答」を編み出すための方法論と分析思考ならこれ。人の質問に本気で向き合って答えなければならない状況になると改めてこの本はいい本だな、と思った。

悩みのるつぼ〜朝日新聞社の人生相談より〜

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【読者質問 04】「まともなコードが書けるエンジニア」はどんなレベル?

ご質問ありがとうございます。さっそく質問から

以前のブログで、"まともなコードが書けるエンジニアは海外移住できる"とおっしゃられてましたが、"まともなコードが書けるエンジニア"とはどういったレベルのエンジニアでしょうか。一人で企業レベルのサービスを一から設計し、それをもとにJavaでスマートフォンアプリを開発し、さらにrubyでAPIやwebサービスを開発することができ、保守運用までもできてしまう、ということまで求められるレベルなのでしょうか。

ご質問者さんがおっしゃっているブログ記事はこちら。
まともなコードが書けるエンジニアならどこでも海外移住できるという単純な理由

ご質問に書かれている技術範囲はちょっと広すぎる気がする。例えばウェブ系の場合はフロントエンドかもしくはバックグラウンドに分けて、そのどちらかで専門性を発揮して活躍できるレベルとなる。

これらのエンジニアレベルを最もてっとり早く把握する方法はターゲットにしている国のIT企業が出している求人票を読むこと。求人票には「**ができる人を求む。給料は**出す」となっているので一番分かりやすい。

例えばこんなの。以下にあるのはググってヒットした、ロンドンで募集しているシニアRubyデベロッパーのポジション。たまたまヒットしただけ。転職エージェントが出してる求人票だし、この会社の詳しいことまでは知らない。
IT Job: Senior Ruby Developer London
きっとそのうちにこのリンク先の求人票も消滅するだろうし、内容をここにコピーした。

Up to£80K

The Company

Award winning, cutting edge technology company developing revolutionary software within the healthcare industry. Located in central London in a brilliant, open plan space surrounded by experts solving complex AI challenges.

ヘルスケア産業に従事している企業でロンドン中心部にあり、と。AIなんてキーワードを入れてるあたりが「うちはイケてますアピール」を感じる。
で、給料がUp to£80Kだから日本円換算すると最低でも年収1100万円から1200万円ぐらい。

The Role

You will be working within the Core development team developing across a multitude of different web applications with the overall aim of making healthcare accessible to everyone, everywhere. The challenges you face will have a heavy focus on making scaleable solutions throughout with bullet proof tests along the way.

An opportunity to work revolutionary projects surrounded by talented people, solving real problems which will make a real difference in the world.

Your Skills

– Commercial experience in Ruby. You should be comfortable with Ruby outside any frameworks.
– Have knowledge of a Ruby server side framework preferably On Rails.
– Good knowledge of databases.
– Strong knowledge with designing API’s.

Nice to haves:

– Experience of AWS
– Experience with Chef
– Experience with micro-services environment

ヘルスケアサービスに関してスケーラブルなシステムの構築をしてくれ、と。
求めるスキルはRuby、Rails、データベース、API設計。もう普通なバックエンド技術といえる。

求職者に持ってて欲しいスキルはAWS、Chef、マイクロサービス、となっている。

これはあくまで1例でしかないが、求められている技術がそこまで多義に渡っていないことは読み取れる。質問者さんが言うような「ひとりで全部やれよ!」のような環境でないことは確かだ。この例にあるようにバックエンドを設計から保守まで見る、というのが今の英語圏では一般的な募集要項だと思う。フロントエンドでも同じ。どちらかの技術をしっかり持っていれば十分。

だからと言ってこのポジションへの応募とオファー獲得が楽勝とは思わない。オフィスがロンドンという魅力的な大都市にあることから応募者は世界中から来ることはカンタンに予想できる。英語ができてRailsもできてAWSが使えてChefでレシピが書ける奴なんて腐るほど居る。それに1200万円の値段が付けば、同様のスキル持っているのにロシアとか東欧でその1/10の値段で働いているエンジニアが「オレも行ったろか」と考えない訳がない。ライバルはそういう連中になる。

ポジションの名前がSenior Ruby Developerとなっていることから、Juniorレベルの面倒を見る役割も求められる。Juniorの技術スキルはまだ入門者レベルだったとしても、地元のイギリス人とかだと英語はネイティブになる。そんな英語ネイティブなエンジニアに対して「君のコードのここはちょっと直した方がいいと思うんだよね」と言った後、イギリス訛の英語でまくし立てるように「え?なんで?オレとしてはこれこれはこういう意図でこっちの方がいいと思うんだけど、なんで直した方がいいと思うの?なんでよ?ハッキリ言ってくれる?ぜひ参考にさせていただきたいから」となってもビビらないでしっかり英語でご指導差し上げるだけの態度も必要になる。

それにAWSとかChefってひとことで言ってるがこれらを本当の意味で習得するのは至難の業だ。なのでアレもコレも技術習得しなければと思わず、ある程度は絞った範囲内で技術習得した方が効率的。そのためにはターゲットの都市の求人票を検索して、しっかり市場調査していけばおのずと道筋は見えてくると思われる。

以上が「"まともなコードが書けるエンジニア"はどんなレベル?」の回答でした。ぜひググっていろんな求人票を見てください。その後、この記事みたいにCV送ってスカイプ面談でもしたらもっと分かると思いますよ。

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【読者質問 03】シンガポールからベルリンに移った理由

ご質問ありがとうございます。ではさっそく質問から

シンガポールからベルリンに移られた理由がいまいちよくわかってないので教えてください。

ご質問者さんはコメントに「シンガポール転職を考え中」とあったので質問を「シンガポールで嫌なことがあってベルリンに移住したのか?シンガポールは住むのにおすすめできない国なのか?」と言いたかったのかも、と深読みした上で回答する。
シンガポールにはまったくイヤなことは無かった。シンガポールは私にとって今でも世界で最も住むにはいい都市のひとつ。清潔で治安も最高に良く、医療、教育、どこをとっても最高レベルに充実している。ただ「他にもいい都市があるんじゃね?」と考えて移住したのがベルリンになる。

私の経歴をひとことで言うと、日本で社畜エンジニア→シンガポールのITスタートアップを数社渡り歩く→ベルリンのITスタートアップ、となる。

まず日本から家族と共に住まいをシンガポールに移した時の感想はとにかく目に入るもの、出会う人達、その人種、考え方、話す内容、食事、職場環境、全てが異なり新鮮で楽しかった。物事の考え方が急拡大していくのが自分でも分かった。自分とまったくバックグラウンドの異なる人達と言葉を交わした際のメリットは計り知れない。外国の人達と積極的に話しもしないで「アメリカ人は**」「中国人は**」なんてイメージだけで言ってる人はちょっと人生を損していると思う。この辺りのことはこちらの記事にも書いた。
シンガポールに暮らして、シンガポールを拠点に周りの東南アジアの国々をヒマさえあれば旅行しまくった。そうして色んなことを経験するにしたがって、シンガポールを拠点とした生活に心の底から満足していた。

それと同時に同僚のITエンジニア達の国を転々と移動する生活スタイルを見ていて「現代のITエンジニアというのはどこでも住む国を選べるのだな」ということが分かってきた。そうなると「シンガポールに満足しているが、私と家族にとってシンガポールが地球上でもっともいい国だ、なんて言えるのか?」と疑問に思うようになった。旅行ではなく、じっくり住まいを置いて住んだ国が日本とシンガポールのたった2カ国だけで、一体なにが分かるのか、と。

元々がケチな根性も手伝って英語ができるITエンジニアなのに2カ国での居住経験しかないのはもったいない、と思うようになった。
以前ロンドンのホテルにチェックインする際に別の老夫婦もチェックインするところだった。ホテルの人が「これ朝食券です」って券をその老夫婦に渡そうとしたら「いや、私らはいつも朝食は食べないの、結構ですのよ」とか言ってるとこを目撃した。もうタダならなんでももらう私にとっては一生ありえないセリフだった。
まーとにかくケチな性格もあって、いろいろ移住しないと損と思うようになり、次の行き先を家族と共に探しだした。

大きく考えて今後の経済圏はだいたい3つに分かれる。北米、EU、中国の3つ。中国をはじめとするアジア圏はシンガポールで十分堪能したので、次は異なる経済圏を考えた。アメリカは個人的にニューヨークに憧れがあった。これは単なる憧れ。しかしどこまで調べてもアメリカの医療制度と教育制度(大学に入る前)が壊滅的にしか思えないので辞めた。
で、残るはEUとなった。私の予想では今後30年ぐらいでEUはひとつになると考えていた。EUという単位で見るとかなり巨大な経済圏になる。混乱がありながらもひとつになりつつあるEUを最も体験できるのはドイツのベルリンかな、ということでベルリンを候補にした。よくよく調べてみると医療制度や教育制度もそれなりで、家族からも「じゃあとりあえず行ってみるか」となり、職を探して応募してオファーもらって移住した、となる。

ベルリンに来てみて感じたのは来る前に予想していた「今後30年ぐらいでEUはひとつに」というのは半分ぐらいは間違っていたな、ということ。ある階層の人達にとってもうEUは本当の意味でひとつになっていた。国際都市ベルリンに暮らす多国籍な同僚エンジニア達の意識に関することなので、文章にするのが難しいが結論だけいうと「彼らにとっては国境がほとんど意味無さそうに見えてしょうがない」ということだ。

いろいろと移住の理由と並べたが、実際のところは行ってみないと分からない。分からないから面白そうだし来てみた、というのが本当のところ。そういう予想もしてなかった出来事との出会いが海外移住の楽しさなので、今後もいろいろ移住してみたいと思っている。これが私のベルリンに移った理由でした。

ご質問あればぜひこちらから! しばらく質問箱は閉じることにしました。


ひとつのところに落ち着かずいろいろ動き周る人の代表と言えば高城剛。多動日記を読むと「この人はなんでこんなに移動してんだよ」の素朴な疑問に少しは答えてくれている。もう目次を見ただけで楽しい気分にさせてくれる。私の中では高城氏の書籍の中でこれがベスト。またいつか書評書こ。
目次がこれ。これだけあっちこっち行って元気なオッサンだなー、とただ感心する。
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本書より

「なんでそんなに旅行に行くのか?」と聞かれることもあるが、逆に聞きたい。「いったい、なぜ、同じ場所にいるのか?」と

高城剛

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