ベルリンのITスタートアップで働くジャバ・ザ・ハットリの日記

日本→シンガポール→ベルリンへと流れ着いたソフトウェアエンジニアのブログ

【読者質問 08】エンジニアとして海外移住するための進路とは?

長文のご質問ありがとうございます。本ブログの方針としてどんなに長文でもご質問は全文掲載。ではさっそく質問から。

ジャバ・ザ・ハットリさん、こんにちは!

ぼくは国公立大学理系の大学院1年生です。電子系なのでプログラミングに関しては全くの初心者です。流され流され人生ここまで来てしまいまして、焦っています。もとから英語が好きで、海外移住したい気持ちがあります。そこで少し前から興味を持ったのが、プログラミングの分野でした。

前置きが長くなりましたが、質問です。
http://tango-ruby.hatenablog.com/entry/2017/02/16/011204
この記事の

「IT人材が不足しているのは日本だって同じ。それでもほとんどの日本のIT部門で働く人は日本人で構成されている。外国人を入れずにチームが満たされているのは、専門知識の無いITサラリーマンが多いため。」

の部分に関しまして、ポテンシャル採用に乗せられてしまうと、コードを書く本当の力が身につかずに海外移住が難しいという解釈をしました。①この解釈であっていますでしょうか?②また未経験からしっかりと力をつけてエンジニアとして海外移住ができるようになるには、どのような進路が良さそうでしょうか。
今年度後期から大学院を休学して、1年ほど英語とプログラミングをしっかり力をつける時間を確保した方がいいのかどうか悩んでいます。

長文になりました。解答いただけると幸いです。

まず①の「ポテンシャル採用に乗せられてしまうと、コードを書く本当の力が身につかずに海外移住が難しいという解釈」について。
ポテンシャル採用自体は日本独特のある意味で人に優しい制度だと思う。問題はまったくコードを書かずに仕様書だけ書く職種があるということ。そういう職に配属されたら、あまりにも英語圏の状況と異なり過ぎてITエンジニアとしての海外転職は難しくなる。コードを書かないで仕様書だけ書けばOkというポジションが海外には無く、そこでの経験を活かす場が用意されていない、というのが大きな理由。

次の②の進路について。前提として質問者さんがITエンジニアとして海外移住をすることが目標とすると、そのための最短コースはこうなる。

  1. 日本のIT企業にエンジニアとして就職
  2. ひたすらコード書いて実績を作る
  3. 実績ができたら会社勤めを続けながら海外転職活動を開始
  4. お断りをもらうたびに改善を続けることで精度を高める
  5. 海外のいい会社からオファーもらったら海外移住

最短コースは示すとこうなる訳で、これ以上に「**をするべき」なんて言っても、そこは個人のスキルや考え方に合わなければ意味がない。どんなに体にいいからと言っても嫌いな食べ物を「食え食え」言われてもウザいだけで、そういうアドバイスは意味がない。なので以下に海外転職を目指すにあたってやってはいけない3つのことを書く。やった方がいいことは人それぞれだが、やってはいけないことはだいたい共通しているので以下の点を注意すればいい。

やってはいけないこと1)
新卒でいきなり海外に出ること

質問者さんが大学院を卒業された後、いきなり海外の会社に履歴書を送って海外転職活動をしようとお考えだったなら、それはちょっと難しいと考えた方がいい。英語圏において就労経験の無い学生が職を得るのは至難の業で、最初はインターンとしてどこかの会社に入り込んでそこでの実績を買われた奴だけがポジションを勝ち取るシステムになっている。母国語ができてそれなりの学校を卒業している学生でもインターン獲得に苦労しているので、日本の学生の場合は日本での就職の方がよほど有利となる。これは1年間休学をされて英語とプログラミングを多少身につけたとしても同じ。よほど才能があれば別だが、そもそも元から才能をお持ちの人は就職なんてすっ飛ばして起業して世界を変えた方がいい。

賛否両論あれど日本の新卒入社というのは日本の学生だけの特権なのでここは有効に使って日本のIT企業で実績を積むことで海外転職へのゴールには近づくことができる。


やってはいけないこと2)
英語の専門家になること

英語が好きで好きでそのまま英語の先生とか専門家になってしまうのは注意した方がいい。なぜならそういう英語「を」仕事にしてしまうと、その種の職の需要が英語圏では無いからだ。カンタンな話、英語圏に日本人の英語の先生は要らない。本当に英語のセンセになりたいんなら、なったらいいんだけどゴールを海外移住に設定するなら、海外を拠点にして英語「で」仕事することを目指すべき。
違いは単に「英語を仕事」か「英語で仕事」か。英語圏においては英語ができることの価値って普通すぎて当たり前だからだ。海外移住を目指すのなら英語は必須。でも英語の専門家はおすすめしない。


やってはいけないこと3)
コミュニケーション能力がカギになる職につくこと

職種がセールス、企画、広報、といった人とのコミュニケーションが重視される職の場合は海外転職という観点から見ると難しくなる。特にセールスの場合、日本一のセールスマンになったとしても、それは日本語で日本人相手にモノを売って培った実績となる。それがスグに英語圏の文化習慣の中で英語でセールスして売れるノウハウにはならない。言葉で売る場合は「ちょっと英会話できます」なんてレベルで許される訳がなく、会話は完璧で当たり前で求められるのはそれ以上だ。これは企画や広報など人とのコミュニケーションが重視される職に共通している。
コードを書くエンジニアを日本でしていて、出世のチャンスが到来すると「そろそろ部下プログラマー15人をマネージメントするポジションに出世してみてはどうかね?」となることがよくある。出世して給料が増えるのはとてもいいことだし、断る理由なんてない。ただ海外転職という点においてはそういう「人のマネージメントスキル」を英語圏に変換するのはとても苦労すると考えた方がいい。マネージメントのキャリアを日本で10年積んでも、それは日本語で日本人を管理して培ったスキルでしかない。そのメンバーを全員国籍の異なる多国籍メンバーにして英語で全てコミュニケーション取らなければならなくなった場合「オレ様の10年に渡る経験」などカンタンに吹っ飛ぶ。もちろん英語圏でもマネージメント的な職に付いている日本人がたくさんいるが、それは日本での実績をいったんゼロに戻して謙虚な気持ちで英語圏の方法を学び直して得ただけ。
これらとは逆にエンジニアの技術スキルは世界共通。プログラミング言語を操ること、サーバーを管理すること、パフォーマンス・チューニングすること。全ての「日本での実績=英語圏の実績」と考えて問題無い。



以上が「エンジニアとして海外移住できるための進路とは?」の回答でした。

みなさんからたくさんご質問いただいてとても嬉しく思ってます。回答のペースを上げて、どんどん書き込むよりもひとつひとつ丁寧に答えていこうと思ってます。質問いただいてから回答まで少し時間かかりますが、そこは気長に待っていただければ、と。

tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com

【読者質問 07】独学でエンジニアになれる?

ご質問ありがとうございます。

大学で計算機・情報科学を専攻せず書籍やWebの情報での独学のみで、エンジニアとして一人前になれるという意見がありますが、現在もそれは有効だと思いますか?

有効です。

というより独学以外でなにかを習得する方法ってほとんど無い気がする。大学でコンピュータ・サイエンスを専攻したのは遠い昔になってしまったが、思い返しても先生から教えてもらったことで今の職場で役に立ってることはほぼ無い。基礎的なアルゴリズム論なんかの講義も受けていたが、本当に理解したのは自分で本を読んでコード書いて習得したのがほとんど。

私が大学に行っていた当時は今ほどAIが騒がれていなかったのにある先生がやたら熱心にディープラーニングの理論を説明していた。当時は「ふーん」ぐらいの感覚で、これが日の目を見るのはまだもうちょっと先だな、ぐらいにしか思っていなかった。それが今のAIブームを考えると、そういうやたら目利きがいい先生に出会って未来技術を紹介してもらえるのは利点かもしれない。ただその先生の講義は私の他にも何人も履修していたが、今のAIブームを先読みしてなにかの利益を得た奴ってほとんど居ないと思う。

アメリカのスタンフォード大学もすごい数の講義をネットに公開していて私もいくつかコンピュータ・サイエンスの講義をネットで視聴した。先生によっては面白い人がいてアレはまーまー楽しい。しかも無料。

大学生の頃に「偏微分方程式」がよく分からなかったので、クラスに居たちょっと賢い奴と長時間に渡って「こういう意味じゃねーのか?」とか議論して勉強したことがある。で、今ウィキペディアで偏微分方程式のところをちょっと読んだ。「一体アレはなんだったんだ」と懐かしくも、大学の効果というのは「偏微分方程式というものがあるからコンピュータグラフィックスやる前に理解しとけよ」と命令されただけで、後はほぼ自習だったことを思い出した。

偏微分方程式 - Wikipedia


こうして考えれば考えるほど大学という場があって、そこに足を運んで講義を受ける形式の授業が非効率に思えてしょうがない。それぐらい今のネットを使った学習環境が良すぎる。MacBook買ってネットに繋げればもう完璧で後は他になにも要らない。なので私としては独学こそが学習で、それこそがエンジニアとして一人前になれる方法だ、と。
それと学校卒業してエンジニアになっても、独学を一切しないで学校で学んだことだけで食っていけてる人なんて居ないと思う。

ちなみに海外転職においてはどうしても学歴が必要になる場面が多いので、それとは別の話としてご理解を。

tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com

【読者質問 06】海外転職の給与交渉と相場は?

ご質問ありがとうございます。

質問コーナーの設置を、大変嬉しく感じております。
早速、質問をさせて頂きます。
海外での転職の際に、給与の交渉はどうされているのでしょうか。
また、その地域の相場と比較し、自分の水準をどのレベルに置くかといった判断は、どういった点を重視されるのでしょうか。
また、交渉にあたり、日本と異なる点や注意点などがあれば、教えて頂けないでしょうか。

私の場合は転職の際に交渉らしい交渉はしていない。まずオファーをもらう前に給与の話が出たら一応「現行の給与以上」とだけ言ってるが、「最低でも**ドル以上はくれよな!」とか強く言うなんてことはなかった。それと日本でも「おい、オレの給与は低いぞ。上げろよ!」とかやったことも無いので「日本と異なる点や注意点」と聞かれてもそういう経験と知識を持ち合わせていないので回答のしようがない。「その地域の相場と比較し、自分の水準をどのレベルに置くか」とかもほとんど意識していない。まー楽しく働いて英語圏だとITエンジニアの給料はそれなりにいいし、これでいいかな、ぐらいの感覚しかない。

きっと質問者さんの期待していた回答とは違うと思う。「なんだこいつ。しょぼいな」と思われたかもしれないが私はそんなにガツガツ交渉できるタイプでもないし、これぐらいしか言えない。

ただ英語圏のビジネスマンは給料でもなんでも交渉する、という話を聞いたりするが現実のニュアンスはちょっと違う気がする。確かになんでも声に出してアピールする文化ではある。しかしそれらが全部「交渉」に含まれるとは思わない。現実は「エリートっぽい人でも実績で評価される労働環境にいるので、それが交渉してがんばっているように見える」のだと思う。

ひとことでは伝わりにくいので以下に説明します。(ぼわっとした印象の話なので数字的根拠は無し)

日本ではエリートほど露骨に実績で評価されてしまう職種にはつかず、社会的地位が高そうなところに集中している印象がある。例えば東大を出て、お家柄もいいお坊ちゃまがいたとして、そういう人が営業職に付く例はあまり無い。営業というのはどんなにそれまで受験勉強をがんばってきたとしても、ちっとも勉強しなかった連中と横一線にならんで、よーいドンで売ってくる仕事だ。その成果はハッキリとA君は**円の売上、Bさんは**円、でエリートお坊ちゃまは**円だけですー、え?東大出?そんなこと知るか!もっと売ってこいボケー!となってしまう。

しかし英語圏ではエリートほどそんな感じのガンガン評価される環境に飛び込んで行く。そういう環境の方が給料が高いというのも関係しているのだろう。「いい大学出ていいコネと知識があるんなら、この職場で実績出しやがれ。できなければ当然クビな。テメーには高い給料払ってんだ!じゃあ後はよろしく」という職場があっても怖気づくことなくやってくる。

コードを書きまくるエンジニアも間違いなく露骨に評価される職のひとつ。どんなに学歴の高いお坊ちゃまであっても、クソなコード書いてバグを連発する奴だったら「お勉強はできるか知らんがエンジニアとしては使えない」となる。この記事に書いたように英語圏では日本のSEにあたる職が無く、コードも書けないのに上級職に付くことはできない。仮に上級職に付いていてもコードが分かってない時点で「バカだなこいつ」と思われたあげくに降ろされるのがオチ。エンジニアがコード書いてGitHubに上げてレビューされるのってもう毎日が評価の連続みたいなもんだ。

こうしてエリート達も露骨に評価されて切磋琢磨しなければならない仕事に付くので全体として「英語圏では給料でもなんでもバリバリ交渉してるのか?」みたいな印象になるのだろうと思った。

海外転職の給与交渉と相場についてはあまり回答できていないが、今回はこんな感じです。

ところで最初、質問箱を設置した時は「いただいた質問は全てこのブログに掲載してお答え」と書いたが前言撤回させてください。全部はキツい。なるべく答えます、ぐらいで。

tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com
tango-ruby.hatenablog.com