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ジャバ・ザ・ハットリの日記

日本→シンガポール→ベルリンへと家族と共に流れ着き、ベルリンのスタートアップで働くソフトウェアエンジニアの日記

解雇通知(クビ)を受けてその5日後に解雇通知の撤回(クビの話は無かったこと)にという人のことナメまくった対応を受けたことがあるのだが

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いろんなことがある海外である程度の耐性ができた私は多少のことに驚かなくなったが、これにはさすがに面食らった。正直な感想としては「オレのことナメとんのか」と。

ある日、会社のCEOに呼ばれて「悪いんだけど○○って理由があって2ヶ月の猶予あげるから転職してもらっていいかな?仕事、スグ見つかるでしょ、おめー技術者だし。なんだったらリファレンスも書くしな」と言われた。いわゆるクビだ。で、その5日後にCEO様から「ちょっとこの間の件なんだけど、○○の部分であんたの技術が必要なんよね。この間の話無かったことにして、会社に居てくれる?いやーこの間はほんとごめんねー。許してくれるかな?つきましては給料をちょっと上げとくし。どう?」となったことがある。

もしこんなことが日本であったら相当に焦ったと思うが、CEOの言う「どうせ職なんてスグに見つけるだろ」の思惑は実はシンガポールの技術者の間では確かに共通認識としてある。
そしてシンガポールでは仕事が見つけやすい分、クビ切ってくる方も大して躊躇なしに切ってくることがある。

レイオフに合ったとしてもそれはその人に問題があるとか無いとかに関わらず起こることなのでいちいちヘコむ必要はない。だいたい雇用主もクビを切ってくるが、そこで働く人もいい条件の会社があればどんどん転職して去っていく。お互い様なのだ。私にしてもCEOに「やっぱ居てくれる?」と聞かれて「おーこの会社に居るぜ!」と答えたものの、心の中では次のいい転職先を狙う気マンマンだった。

一体なんて国なんだ、と憤慨されるかもしれないが、私は公平に日本の労働市場とシンガポールのそれを比較して、シンガポールや英語圏のやり方の方が健康的だと感じている。つまりクビもあるけど、再チャレンジはいくらでもOkという社会だ。

特に技術者の場合は何をする人なのか、がはっきり決まっている分、プロジェクトの切れ目でどうしても「プロジェクトが一段落したけど、あの人は次から何するの?」となってしまうことがある。そこで無理に同じ会社で居るよりもより求められる職場へ移った方が雇用主にとってもその技術者にとってもいいことなのだ。

それに対して日本の場合はクビはなかなか無いが、一度でもオッサン年齢の人がレールから外れると再チャレンジがとてつもなく難しいという社会。これにはクビになりにくいというメリットに対して大きなデメリットがある。

まず組織の中であまり仕事をしない人というのを日本ではよく見かけた。組織の中には1人や2人居る「あまり仕事してない人」だ。特に大きな組織ほど「あのオッサンなに?」なことがあった。ところがシンガポールのスタートアップでは100%それはない。なにしろCEOがカジュアルにクビを切ってくる世界だ。少しでも「ダメかな」なんてなったらスグにバイバイだ。入社してたった2週間でクビになった人がいた。だからそんな「何してるのか分からない人」が入り込む隙なんて1ミリもない。

英語圏の技術者と日本の技術者の違いのひとつとして、勉強と人的ネットワーク作りにおける姿勢がある。

概して英語圏のエンジニアは勉強熱心でたとえオッサンであっても最新の技術のキャッチアップに熱心でかつ人的ネットワークの構築も常に行っている。
これは誇張ではなく本当に私はシンガポールのスタートアップで勉強熱心でない技術者に会ったことが無い。ひとりの例外もなくみんなが非常に勉強熱心だ。これは単に「熱心だなー、えらいなー」というような話ではなく、この「スグにクビになるかもしれないから、自分の技術を備えておかなければならない」という労働市場が主な理由だろう。私も前述のような経験を経てとにかく自分の技術のブラッシュアップにさらに熱心になってしまった。

これは自分の技術だけでなく人的ネットワークについても言える。たった5日だがクビを宣告された際に人的ネットワークの大切さを痛感した。最初、私の状況を知っているのは社内の限られた人だけだったが、その人達が多くの友人や同じビルで働く別のスタートアップの技術者達なんかにも伝えてくれた。「人様の身の上をナニ勝手にしゃべってんだよ」とか思ったが、彼らはそんな意味のない噂話を単に広げていたのではない。助けてくれようとしたのだ。実際わたしの身の上を知った同じビルで働くスタートアップの技術者達から「聞いたよー。ウチ来るか?」とたくさんの助けの手を差し伸べてくれた。

日頃から何気なく繋がっていた人的ネットワークがとても大事だということに気付かされた。自分の持つ技術を分かってもらっておいて、いざとなった時に「あんたの技術だったら要るからウチ来る?」と言ってくれる人達を社内外に作っておくことが重要なのだ。会社の外のエンジニア達とのランチなどでは「あーまた今日もランチ食いながら英語で話すのか。しんどいな」とおっくうに感じることもあった。が、そこは多少無理してでも行ってできるだけ情報交換をするべきなのだ。転職だけでなく技術的な話でも多いに有用な話が聞けるし、それが流動性の高い労働市場ではセーブティーネットとなる。

またあるカンファレンスで50代とかのかなり高齢のアメリカ人エンジニアと知り合った。そして彼から熱心に「おめー今ナニしてんの?エンジニアの環境は日本とくらべてどうだ?」「オレは○○って会社でデータアナリストしてんだよ。連絡取り合おな」という感じで彼は自分より10や20歳以上も年下の人間であっても分け隔てなく熱心にネットワーク作りを行っていた。ちょっと日本の50代のサラリーマンではなかなか居ないのではないだろうか。

「10年後の仕事のカタチ10のヒント」にあった「非正規、正規雇用の境目のない世界 」はまさに私が前述の経験などを経て感じていることだった。

本書は海外経験豊富な松井博氏, 大石哲之氏が語り合う仕事に関する著書で、基本はアメリカやアジアの日本国外の労働市場から未来を予想した言及となっている。日本では非正規と正規雇用を分けて、その待遇や格差を議論しているようだが、今後はもうそんな区別は溶けて無くなっていくというのが両氏の予想だ。

私が日々実感しているのもまさにこの通りで、シンガポールでもそのような区別はほとんどない。正社員であっても、その会社に居続ける保証はどこにもなく、特に技術者は各個人がその技術を売る個人事業主のようだ。

日本では「老害!老害!」と弾劾される機会の多いオッサンサラリーマンだが、彼らの立場を考えればそうなっても仕方がないだろう。一度でも会社の外に出れば職を得るチャンスが用意されていなければ、現状の立場にしがみつくのは当然だ。

ただもしそんな現状に嫌気が指しているのなら海外に移住してみるのもひとつの手段だと思う。格差社会やグローバル化はそれをことさら賞賛したり、また逆に忌み嫌ったりするものではなく、もうそこにある現実だ。それにうまく対応するしかない。で、やってみれば案外誰でもできることだと思っている。
 
 
この本なかなかに面白かった。いつか書評書こ。