ベルリンのITスタートアップで働くジャバ・ザ・ハットリの日記

日本→シンガポール→ベルリンへと流れ着いたソフトウェアエンジニアのブログ

とびきり優秀だとしても、クビになる可能性は決して無くならないのがこの国のIT業界

極度に効率化されたシンガポールのIT業界ではどんなに優秀な人であってもレイオフ(クビ)の対象になりますよ、と。日本でも人気なマッキンゼーという戦コン会社があって、そこ出身の高給取りが目の前でレイオフの対象になって会社から出て行くとこを目撃して「もうこの国ではどんなに優秀でもクビから逃れることはほぼ不可能だな」と悟った話。

その当時勤めていた会社はアメリカに本社があるそれなりの規模の会社だった。エンジニアからなるチームがあって、それを指揮する立場にはマッキンゼーや有名な戦コンのダイレクタークラスの人達をスカウトして入れていた。

当時私が所属していたチームは泥沼状態だった。客はマイクロソフトやGoogleとデカイ規模の客でかなりの売上が見込んでいたのが、最悪な状況を出して、客が呆れ返るありさまだった。本当にダメの中のダメで全世界支社の各チームの中でシンガポール支社のそのチームが一番のお荷物になっていた。私も含めてチームのエンジニア達も悔しいのでなんとかがんばるのだが、もう客との関係や構造的な問題が山積し、エンジニアがどうにかして解決できる許容量を遥かに超えていた。精根尽き果てたエンジニア達が「もうここはダメだ」と話していた。
ところがだ、アメリカ本社から「スゲー奴のスカウトに成功した。マッキンゼー出身のドイツ人でそいつが入れば万事Okだ!」とのメッセージを受けた。でもチームのエンジニア達は誰ひとりとして信用していなかった。こんな火中の栗を拾うようなことをわざわざしに来る奴は単なるドMか先が読めないバカかのどちらかだろう、と言っていた。

ところがだ、そのマッキンゼー出身のM野郎が入ってくると次々に施策を打ちそれが見事に当たっていくのだ。チームの士気も高まりどんどん事態が好転していく。スポーツ映画でよくある、万年最下位のダメチームが優勝してしまう作り話にそっくりだった。そこにはM野郎がマッキンゼーで培ったノウハウと大手IT企業に繋がるコネなんかを全部投入して、そのチームを救ったのだ。正直そのM野郎の仕事ぶりを目の当たりにするまでは「マッキンゼー出身がなんぼのもんだ」という懐疑的な気持ちをずっと持っていた。が、やはり餅は餅屋でハマればすごい仕事をやってのける人が居るもんだ、と考えを改めた。

すげーなーと思っていた矢先にその偉大なるM野郎がなんとクビになったのだ。初めて聞いた時にはびっくりして言葉も出なかった。目の前で会社に多大な貢献をしてきた実績を見てたのだ。なんでそんな恩を仇で返すような仕打ちがあるのかまったく理解できなかった。CEOの女に手を出したとか、変な理由しか思いつかなかった。

唐突に会社を去って1ヶ月ほどしてから、その偉大なM野郎と話す機会を得た。「次の転職先が東京になったので日本のことを少し聞かせて欲しい。おめー日本人だろ。いいかな?」とのことだった。

私もその偉大なM野郎に惚れ込んでいたのでさっそくカフェで落ち合ってちょっと話した。で、いろいろ聞いたのだが彼がレイオフの対象になった訳もなんとなく分かった。その当時会社は最後の賭けでM野郎を引きぬいたのだ。当然ながら莫大な金額でのオファーをM野郎に出した。
いったん最悪な事態がM野郎のおかげで沈静化し、後はそのまま継続していけば大丈夫だろう、と見込みがついたところでM野郎に出している高額な報酬がネックになったのだ。
スゲー奴にはそれ相応のスゲー金額が必要で、要が済んだらそんなスゲー金額払ってまでやってもらうべき仕事がそうそうある訳じゃなくなる。で、さよならになってしまったと。

M野郎も世界のどこでも仕事ができる奴で、どーとも思ってねーわと言っていた。確かにその通りだろう。仮にあの時点でもし会社が「アンタの給与は高いし**まで下げてくれるかな?」なんて提案しても偉大なM野郎はそんな提案は蹴って出ていったと思う。それに当時最悪な事態が目の前にあった時、偉大なM野郎にとっては「世界でオレにしか解決できないオレのための仕事があって、めちゃ興奮した」というニュアンスのことを言っていた。泥沼状態に浸かっていた当時のエンジニアにとっては最悪な状況でもM野郎にとっては世界一やりがいのある状況だったのだ。そんな仕事が完了したらもうそこに居る意味も無くなった。結果はレイオフに合ったが、遅かれ早かれ彼は出て行く運命だったのだ。

当然ながら能力が低い人や生産性が著しく低い人は常にクビの対象になる。でもだからといって超ハイスペックでバリバリに仕事ができればクビにはならないか、というとそうでもない。もうクビはどんなレベルの誰にでもついてまわるものなのだ。いちいち気にしてたらこんな国では生きてはいけない。そうした不安は常についてまわる。唯一のセーフティーネットは「今の職が無くなっても他でも食っていける」という自信だけ。そして誰でもそんな自信が完璧にある訳じゃない。自信を持とうとしながらも、結局は不安と共に生きるしかないのだ。

唯一の心の拠り所は「アタシ不安で不安でしょうがないんですけど。。。」と言って周りを見渡すと

そこに居る人全員が同じ不安を抱えながらも仕事に励んでいることだ。

どこ探しても「安泰」なんてモノを持ってる奴は居ない。
 
 
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