ベルリンのITスタートアップで働くジャバ・ザ・ハットリの日記

日本→シンガポール→ベルリンへと流れ着いたソフトウェアエンジニアのブログ

ボスの評価をあんまり気にしてないシンガポールで働く多国籍なエンジニア達が気にしてること

移転しました。

シンガポールで働く多国籍なエンジニア達はボスの評価をあんまり気にしてないけど、その代わりにその何百倍も気にしていることがありますよ、という話。

先日オフィスで仕事している時に「ワぁあああー!」という声がして、ドタっとなにかが落ちる音がした。なんだ?と思って見てみるとガラス扉の向こうでうちのCEOのアメリカ人ボスが業者が運んでいるペットボトルの束とぶつかってコケていた。腹の突き出た肥満体型のボスが子供みたいに床に転がって、その上に次々に荷台に乗ってたペットボトルがボスの腹の上に落ちてきていた。あまりに傑作なコケ方でその場にいたエンジニア達みんなで指を指して笑った。こっちはガラス扉の内側でガラスの向こう側を見てると、動物園で珍獣の面白い様子を観察するようで大いに楽しめた。ボスの醜態をiPhoneで写真に撮る奴まで居た。

ただそれだけの話だけど、ここに雇用をめぐる文化背景を感じた。

もしこれと同じことが松下電器の松下幸之助氏が存命中に社内で最高に面白いコケ方をしたらどうなっただろう。社内ではほとんど神格化された松下氏のことだ。きっと周りの社員達がどんなに面白くても笑いを噛み殺して「社長!大丈夫ですか?お怪我はございませんか?」と言って松下氏のそばにかけより、こぼれ落ちてくるペットボトルを社員達で手分けをして片付けていたように思う。間違っても偉大なる幸之助氏の醜態を写真に撮る奴なんて居なかっただろう。

別にこちらのエンジニア達が困っている人を助けない非情な連中だとか、うちのボスがみんなに嫌われていて誰にも助けてもらえない、とかではない。もしボスが本当にひどい怪我をしていたら助けただろう。あの時は怪我も無く、ただただ面白いコケ方だっただけだ。それに出身国の文化的背景とかも一切感じない。なぜならそうしてゲラゲラ笑っていたエンジニア達の出身国はヨーロッパ、北米、南米、アジアから集まる多国籍なエンジニア集団だったからだ。共通するのはみんなシンガポールのスタートアップでエンジニアとして働いていること、だけだ。

こちらのエンジニア達の頭の中には雇用主であるボスに気に入られようとする発想がほとんど見受けられない。その理由はこの国にある高い雇用の流動性が機縁している。誰でも人間だし、自分にメリットがあればそうするに決まってる。ぶっちゃけて言ってしまえば、ボスに気に入られたってそのメリットが少ないのだ。どんな上司であってもいつかは他の会社へ移るし、自分だって明日はどこに転職するか分からない。コロコロ変わる上司にいちいちコビを売っても意味が無いのだ。その代わりにどんな時でも頼りになるのは「自分の技術」になる。

上司に対して気を使わない代わりにこちらのエンジニア達は自分の技術価値に対しては大変に気を使っている。タスクの割り振りの際にも「そんなタスクをオレ様が請け負っても技術的成長が見込めないからやらんぞ!」とか、頼んでもいないのに「その**の技術を使ったタスクはオレがやる。他の奴は手を出すな。前からそれを身に付けたかったんだ。」と言ってくる。
そうやって自分の技術価値を日々高めていかないと、給料は上がらないし有利な転職ができなくなるからだ。自分の技術価値と給料にはハッキリとした相関があって、技術がある奴ほど稼ぐ。この環境下では「上司に気に入られてるからいいポジションに居る」とかほぼ不可能だと感じる。

これはこれで「デキる奴にだけカネが集まる」「デキない人は即クビ」という厳しい側面もある。それでもエンジニアにとっては変な人間関係のストレス無く技術に専念できるいい環境だと思う。「技術に専念できる」というより「専念しなければ生きていけない」という表現の方が正しいのかもしれない。

 但しこれはスタートアップのエンジニア職をめぐる環境についての個人的意見。金融系とかの非エンジニア職でエグゼクティブに近くなれば日本以上の社内営業が必要と聞く。上司へのコビの売り方も強烈らしい。

要は人は環境に合わせて、考え方も順応するんだなー、と。そして私自身はこの「技術に集中せざるを得ない英語圏のスタートアップの環境」がとても気に入っている。

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