ベルリンのITスタートアップで働くジャバ・ザ・ハットリの日記

日本→シンガポール→ベルリンへと流れ着いたソフトウェアエンジニアのブログ

「多様な意見」はなぜ正しいのか(著:スコット・ペイジ)書評と英語圏の労働環境に関する考察

移転しました。

「英語圏のエンジニア達は日本人のように長時間労働をしていない。彼らは日本のエンジニアの2倍かそれ以上の給料をもらっている。それでなんで会社が成り立ってるんだ!?」という疑問は英語圏で働き出してからずっとあったが、これという答えは見いだせずにいた。が、ついに本書によってその回答を得たようだ。

「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき

「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき

結論から言えばそのカギは多様性にある。

多様性という概念を本書では学者が書いた本らしく仮説を立て、その検証、測定方法、結果までが丁寧かつ論理的に記述されている。単なる感覚で「多様性って大事だと思うんだよねー」みたいな記述は一切無く、そこが本書の最大の価値となっている。

本書にもあった実験は実に興味深い。まず最初は最高のチーム作りの研究だった。とびきり優秀なトップ数パーセントの人達だけで作ったチームAと、その他大勢からテキトーに集めてきたチームBを構成する。両チームに同じプロジェクトを遂行してもらっていかにチームAが勝つかを測る実験だった。
しかし結果は何度も何度もチームBが勝ってしまうのだ。チームBの勝利データを無視する訳にはいかず、ずっと溜めていくとひとつの結論が出る。「ひとりひとりの能力は劣っていたとしても、それぞれのメンバーが持つ多様性がチームを勝利に導くになにかをもたらしているのだ」と。

もちろんプロジェクトの内容によっても違いが出るし、「多様性は能力に勝る」が常に起きるとは限らない。心臓手術をしてもらう際に、最高の心臓外科医を集めたチームAとパン屋、セールスマン、レースクイーンという多様性あるチームBとどちらに手術して欲しいか、となったらAであることは明らかだ。

本書ではどの様なケースが最も多様性が活かせるか、また活かせないのか、について細かく言及されている。

今の勤め先であるベルリンのITスタートアップのエンジニアチームは全員で6人。それぞれイタリア人、ロシア人、ポーランド人、インド人、スペイン人、日本人(私)という構成だ。これは私の勤め先だけが特別なのではなく、ベルリンにあるほぼ全てのITスタートアップがこの様な多国籍状態だ。シンガポールでも同じ。それを好むと好まざるとに関わらず、国際都市においては多様性が空気や水のようにそこにある。

かつて日本で働いていた頃のエンジニアチームは全員が日本人でその同僚エンジニア達と今ベルリンのITスタートアップで働いている多国籍チームの同僚を比較して、そこまで個々の能力が違うようには思えない。しかしチーム単位で比較した際にその生産性は多国籍チームの方に軍配が上がる。

会社運営において英語圏と日本の労働環境を比較すると英語圏では日本の数倍の生産性が無ければ成り立たない。単純に言ってしまうと、英語圏のITエンジニアに2倍の給料を払って、そいつらが夕方6時に帰宅して半分の時間しか働かない場合、その生産性は日本の4倍以上を確保してもらう必要がある。で、それが現に達成されているようだ。英語圏であることからマーケットがグローバルになり、利幅が大きく取れるとかなんとでも言いようはあるが、それでも釈然としない感覚があった。個々のエンジニアの能力については4倍も違う訳ねーだろ、と。

その答えのひとつとして本書が解説する「多様性」がある。だいたいITスタートアップにおけるプロジェクト自体が多様性を大いに活かせる場だったのだ。英語圏のITスタートアップはその多様性あふれるチーム構成から高い生産性を叩き出しているのだった。

また私自身の人材価値としてもコード書いてシステムを設計する技術と同じかそれ以上にヨーロッパ人には無い視点で、東洋文化をルーツに持つ人間から意見することに価値があったようだ。日本では特別でもない普通の人材でも遠くへ移動してしまえば希少価値のある人材になり、それが価値を生み出せる。

本書を通して私が考えた結論は以下の3つ。(本の結論ではない)

  • できるだけ自分と異なる人を尊重することで価値が出せる
  • できるだけ遠くへ行くことで価値が出せる
  • できるだけ人と違ったことをすることで価値が出せる

この本は読んだ後「あーそうですか」だけでは終わらない。読後に「では私はこれからどうするべきか」を考えさせる本だ。上記の私の結論とはまた違った結論が他の方が読めば出てくる気がする。久々に読後もあれこれと思考を巡らせることができる本に出会った。

「多様な意見」はなぜ正しいのか 衆愚が集合知に変わるとき

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