ベルリンのITスタートアップで働くジャバ・ザ・ハットリの日記

日本→シンガポール→ベルリンへと流れ着いたソフトウェアエンジニアのブログ

DJマシュメロのマーケティングが絶妙なのでウェブ系エンジニア目線でその考察を書く

特にEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)に造詣が深い訳ではない。しかしDJマシュメロのEDM界におけるマーケティングの素晴らしさを目の当たりにして「これはウェブ系エンジニアがしっかり参考にするべきなのでは」と思ったので書いた。

DJマシュメロとは

マシュマロをかぶった覆面DJ。 被り物とジャンルにとらわれない楽曲でEDM界において快進撃を続けるDJだが、その正体は謎のままで誰も知らない(ことになっている)。

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ULTRA SINGAPORE 2016に登場

ULTRA SINGAPORE 2016が先日開催されて、この世の全ての流行り物には勉強を兼ねて飛びついておく主義の私としては一応参戦した。参戦した後もその余韻に浸ってYouTubeなんかでULTRA SINGAPOREのDJをチェックしていたら、ふとあることに気が付いた。

小学生の娘達にとってULTRA SINGAPOREに出演したたくさんのDJ達の中でとびきりのお気に入りがマシュメロだったのだ。

オッサンの私は子供に無理に趣味を強要したりしない。趣味に関しては放置しているつもり。むしろ子供の柔らかい感性のアンテナにヒットしたものを「そういうのが今はウケるのか」と参考にして後追いしている方だ。娘達が「マシュメロウー!」「マシュメロウー!」と叫んでマシュメロの曲に合わせて踊っているのを見て「これはスゲーな」と考えるにいたった。

そしてこれは小学生にもウケる要素を十二分に持ったマーケティングの成果だな、と感じた。

DJマシュメロ絶妙マーケティングの3大要素

[1] 被り物

誰でもまずパッと見てそのマシュマロの被り物に目がいく。これは「たまに被って登場する」とかではなくて、最初から最後までずっと被っていて正体を明かさない。ネットでは正体がバレ気味だけど、公式としては「出身地は食料品店」のマシュマロということであって匿名を貫いている。

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とりあえずDJのルックスは比較的イケメンが多い。そんな中であえてふざけたマシュマロの被り物と全身白タイツみたいなルックスでDJブースに登場したら、人の目を引くのは当然だ。

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とにかくなんでもいいから奇抜な格好して注目されてまえ、という戦略でもダメだと思う。あまりに奇抜過ぎても単に観客がヒクだけだ。ある程度カッコよさが売りのDJにとってふざけた被り物は諸刃の剣になりうる。
マシュマロの被り物というのはギリギリに許される範囲で注目を集めてちょうどいい感じに受け入れられる。
どうやってその発想が出てきたのか知らないが、絶妙にいいアイデアだと思った。

[2] かわいい系のダンスミュージック

私は音楽に関してまったくのド素人だが、マシュメロの音楽がEDMの中でも「ちょっとかわいい系」に位置しているのは分かる。
ここまで娘達にウケた要素としてこの「かわいい系」というのがある。ULTRA SINGAPOREに出ていた他のDJは娘達から「怖い」という感想を持たれていた。

それらのDJ達はDJブースから大音量のズンドコ音を鳴らしながら、マイクでギャーギャー言って観客を煽っていた。別に煽ること自体はいいのだが、その際に言うことがやれ「ファック」だとか「マザー・ファッカー」とか言いまくっていた。
これらの言葉は当然ながらシンガポールの小学校の先生に「絶対に言ってはいけないお言葉です」と注意されている。それにも関わらず全ての名詞の前につく形容詞として「Fuckin' ***!!」と大音量で叫んでいる兄ちゃんに対して、小学生が「怖い」という感想を抱いて当然だ。

そこへ来て「お次のDJはマシュメロー!」と言われてマシュマロの被り物した白い人が出てきて、マイクでしゃべっても放送禁止用語を言うこともなく、ちょっとかわいい系のダンスミュージックをかけ出したら小学生にとって「この人はいい!」となった。

日本のアイドルのように「かわいい」を全面に出してもEDMとしてはきっとダメだっただろうし、この「ちょっとかわいい系」というのがスッポリあいた子供の心にスッと入っていったのだと思う。

大人の私にしてもかっこいい系のEDMばかりが占める中で「ありそうで今までにはなかったゾーン」にマシュメロがスッポリ入る感覚があった。

[3] 凝りに凝ったSNSの活用

これは本当にネットマーケティングとして非常に参考になる。DJマシュメロの活動をそれぞれのSNSで拾っていくとそれが上手なのが分かる。

ほとんどのアーティストはどこかの海外講演の際にはそこの地域で写真とって「I love Tokyo」とかやってSNSに挙げるのが恒例となっている。マシュメロだって例外ではないが、例の被り物を使ってやられるとなんかウケる。
これは日本に来た時の写真付きツイート。もうズルいぐらいにいい!

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そして写真だけではない。しっかり文字を追ってテキストを読むと「おっ!」と思わせる発言もある。

「I just want to make good music…that doesn’t require you knowing who I am(純粋に素晴らしい音楽を作りたいだけだから、私の正体が誰なのかなんて知る必要はないだろう)」とか。謎の正体とあいまっていい感じだ。

SNSの巨人はビッグアーティストが占めている。例えばテイラー・スウィフトとかジャスティン・ビーバーとか。インスタグラムで写真を上げればすごい数のアクセスがあるらしい。テイラー・スウィフトは美女ぞろいのお友達と全員でセクシーな水着着て、写真とって「普段のアタシです」みたいに写真をアップロードしている。そんなことすればアクセスがガンガン集まって当然だ。DJがこれと同じ路線で勝負できる訳がない。

音楽という分野では同じフィールドに立って勝負しなければならない場合、そうしたビッグアーティストと差別化し尚かつちゃんとウケるには戦略を練る必要がある。マシュメロはふざけているように見えて、そこの戦略をとても考えられているように感じた。

ウェブ系エンジニアとして

ウェブ系エンジニアとして日々アプリなりプロジェクトを「なんとかして当ててやれー!」とがんばっているところだ。ところがそのアプリの実態はバグだらけだったり、広告に投下するリソース不足だったりと悩みは尽きない。そんな中で大手のメガアプリを出し抜いてユーザーの支持をなんとか集めようと考え続けている。

時々「もう何をやってもムダだー」とか思ってしまうこともあるが、DJマシュメロのマーケティングを目の当たりにして「しっかり考えて正しいことを正しいタイミングと方法でやり抜けば道は開けるのだ」というのを身をもって知らされた。

音楽に詳しい人に語らせればもっと「その音楽性がだねー」と高尚な考察があったのだろうが、私にはできない。それでも音楽素人のウェブ系エンジニア目線で見て、とても勉強になった。

オレも当ててやるぞー、と。
 
 

Alone

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「プログラマが知るべき97のこと」はやたらリピート率の高いキンドル本

「プログラマが知るべき97のこと」の英語版がKindleに入っていて、結構な頻度で読んでいる。エンジニア向けエッセイ集で全てのエッセイが2ページほどに収まっており、スキマ時間に読むのにちょうどいいからだ。各エッセイには97人の熟練エンジニア達がその長年の仕事とその成果から得た哲学が詰まっている。たった2ページであっても読み終わってKindleを閉じた後に「ふむふむ」と考えてしまうことが多々ある。

97 Things Every Programmer Should Know: Collective Wisdom from the Experts

97 Things Every Programmer Should Know: Collective Wisdom from the Experts

全てIT系のプログラミングに関する内容になっている。しかしコード事例はひとつもない。全てエッセイ。
コードを書くにあたっての原理原則、勉強方法、イラついた時の解消方法などがそれぞれの著者の経験を元に綴られている。97あるエッセイのタイトルだけいくつか抜き出しても、そのエッセンスが読み取れる。

  • Before You Refactor(リファクタリングの前に気を付けること)
  • Check Your Code First Before Looking to Blame Others(人様にどうこう言う前にまず自分のコードを見直す)
  • Code Is Design(コードとはデザイン(設計))
  • A Comment on Comments(コメントについてコメント)
  • Continuous Learning(継続的学習)
  • Hard Work Does Not Pay Off(ハードワークは報われない)
  • Put the Mouse Down and Step Away from the Keyboard(マウスを置いてキーボードから離れてみる)


実は私はこうした「コード事例が一切書かれていないIT系のエッセイ」がまーまー好きだ。コードそのものよりもその1歩手前のエンジニアの考え方に興味があって、そうした内容に共感することも多い。

Mediumなんかにも同様のIT系のブログ記事があるのでこちらも読むことがある。しかしひとつひとつの文章の質から言えば「プログラマが知るべき97のこと」の方に軍配があがる。もちろんブログ記事にも尖ったおもしろい記事にヒットすることがあるが、どうしてもその打率は低く感じる。本のように誰かに校正編集される訳でもなく、クリックひとつで世に出るブログにしょうもない記事が含まれてしまうのは当然のこと。さらに英語になるといろんな英語レベルの人が英語を書くので、どう考えても参考にならない英語文章に出会うこともある。

そういった点からある程度のレベルを保ったIT系エッセイをまとめて英語で読むには本書は最適と思う。
日本語版もあるようなので、日本語がよければそちらをどうぞ。

97 Things Every Programmer Should Know: Collective Wisdom from the Experts

97 Things Every Programmer Should Know: Collective Wisdom from the Experts

プログラマが知るべき97のこと

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  • 作者: 和田卓人,Kevlin Henney,夏目大
  • 出版社/メーカー: オライリージャパン
  • 発売日: 2010/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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エンジニアの技術力とプロジェクトのヒット率の悲しい相関性

元同僚のエンジニア達に会っていろいろ話す機会があって、彼らと話すうちにエンジニアの技術力とプロジェクトのヒット率の悲しい相関性について言及するに至った。

人材の流動性が高いシンガポールのスタートアップで働いていると、同僚と仲良くなっても自分が転職したりその同僚が転職したりと人のネットワークが動的に変化していく。なのでたまに元同僚達に会うと共通の知り合い達の話をしてスタートアップ界隈の情報交換をする。で、それがまたやけに楽しい。

先日会ったのは元同僚のベトナム人エンジニアのKとスペイン人エンジニアのR。2人とも転職して今は私と同じ会社では働いていない。3人の共通の知り合いエンジニア達はざっと10人ほどいて、それぞれについて近況、と言うかただのうわさ話をしていた。それはざっとこんな感じだった。

  • アメリカ人エンジニアのTは地元(シアトル)の友人の立ち上げた会社が巨額のバリュエーションを獲得して、その友人の誘いに乗ってシアトルに帰った。
  • フランス人エンジニアのBは転職した先の事業がポシャって結局フランスに帰った。その会社は今はもう無い。Bって技術力の高い奴だったのに運が悪かったねー、と。
  • 香港人エンジニアのKが働いている会社の企画が当たったらしくて、そこはやけに羽振りがいい。Kの給与がいくらなのかは知らないが、なぜか今Kは投資先の不動産を探していて、いつもコーディングが上の空らしい。

というような話を言って「あはは!」と3人で笑っていた。景気のいいシンガポールであってもその中の会社やプロジェクトをひとつひとつ取り出すと、全て景気がいい訳でもなく、当たりもあればハズレもあるのが実態。元同僚の近況を話したりして、しみじみと思うことがあってそれは

エンジニアの技術力とプロジェクトのヒット率には悲しいほどに相関が無い、ということ。

当たる企画にあるべき要素の中に技術力というのも一応は入っているだろう。でもそれはいくつかある中のひとつでしかない。決して十分条件ではない。技術力さえあれば企画が当たる訳では決して無い。そして往々にして当たった企画や会社に居た、そんなに技術力の無いエンジニアはそのラッキーさから目立つ。とにかく目立つ。

Googleは会社の立ち上げ当初から人材採用に力を入れていて、社員数20人以下の時代から尖った優秀な技術者集団だった、とか。マイクロソフトは立ち上げ当初からとびきりのコンピュータオタクの集まりだった、とかの話がある。でもなんか会社がデカくなってから後付けでデキた話に感じる。確かに立ち上げ当初から優秀な技術者が居たのだろう。ただそれと同時に普通レベルの技術者もまぎれていたはず。「アタシって普通の技術者なんだけどラッキーなことに当時は小さな会社だったのが当たったわ。え?社名?ぐーぐるって言うんだけどね。あっはっは!」な人は必ず居る。

だって悲しい程に相関無いから。

そうは言っても技術者として飯を食っていくからには、技術力を常に高めていかなければ職は得られないし、ヘタしたらクビにもなる。この話は決してエンジニアにとって技術力が要らない、なんて話ではない。技術力は必要。ただ技術力があるからと言って必ず企画が当たるとは限らない、というだけの話。
 

How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス)  ―私たちの働き方とマネジメント

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